2日ぶりに、9月19日~27日のアメリカの旅の紹介を再開します。
9月19日夜にNYについて、20日から車で西に移動、ライトの落水荘などを見て、21日ピッツバーグからフォートワースに飛行機で移動し、22日にキンベル美術館(カーン館、ピアノ館)、フォートワース美術館、エイモン・カーター美術館を見て、その日のうちに、NYラガーディア空港にもどり、空港近くの(到着初日と同じ)ホテルに泊まりました。ほんとに密度の高い3日間でした。(詳しくはこれまでの日記を参照してください。)
23日は朝から、昨晩滞在したホテルから最終日の26日まで宿泊するアパートに移動です。
23日から25日の3日間は、NYやその近郊にあるNew Heavenなどの建物を見て回りました。23日は荷物をアパートに移動したあとに、主にNYの美術館を駆け足で回りました。






ラファエル・ヴィニオリはウルグアイ生まれニューヨーク在住の建築家で、東京国際フォーラムの設計者です。
マルセル・ブロイヤーのWhitney Museumに行く前に、 昨日取り上げた、ラファエル・ヴィニオリの集合住宅(432 Park Avenue)について少し詳しくみてみたいと思います。



きわめてコンセプチュアルでミニマル・アートのような超高層です。現代ではCAD(Computer Aided Design)が進化し、どんな複雑な曲面形状の建物でも設計できるようになり、21世紀に入ってからは、それを競い合っているようなような雰囲気が建築界にはありますが、逆にこれだけシンプルな表情のものを見せられるとハッとさせられます。MOMAから見たら、一つの展示作品のようですね。
この建物のなにがすごいのか?
まずは、New York市で一番高い建物であること。記事によると、西半球(日本ではあまりこんな表現は見たことがないが。東半球との境界線はどこにあるのだろう?)で一番高い、住居系のビルでもあります。
しかし、ただ高いだけではありません。この建物は立方格子状に見えますね。窓の大きさは10フィート(約3m)だそうです。ということは、この建物の平面は約20m角ということになります。
96階建ての建物の平面がわずか20m角というのは驚異的なことです。高さは350mほどはあるでしょう。
建物は、当然細ければ細いほど倒れやすく、壊れやすくなります。また、建物は下の層になればなるほど、その上の部分の荷重が大きくなるので、構造体(柱など)が太く大きくなるのが普通です。五重塔のように上に行けば行くほど小さくなるのが構造的には理に適っているわけです。しかし、この建物は、内部の柱はどうなっているかわかりませんが、外観上は、同じ太さの柱と梁で1階から最上階までが構築されています。一見何も変わったことをしていないように見えますが、(いくら地盤が岩盤でできているマンハッタンでも)構造的には相当がんばっているはずです。約3mピッチで外周に柱を配置しているので、(このピッチは通常の2~3倍の密度です)内部のコアと外周部の柱でチューブ構造のようなものを形成しているのでしょうか?
そして、高層建築の場合は、縦に移動する手段(=垂直動線)が平面に占める割合が、一般に高ければ高いほど大きくなります。つまり、高層になると、エレベーターや階段がその分多く必要になってくるため、電波塔などの特殊な用途の建物ではない限りは、スレンダーな建物は難しいのです。経済合理性を考えると、その垂直動線などを入れたコアに対して、できるだけ有効に各階で居住部を貼り付けた方が有利なわけですから、単純な不動産的価値からアプローチすると、六本木ヒルズのような、ぼてっとしたプロポーションになってしまうわけです。
延べ面積に対する収益部分の割合をレンタブル比といい、不動産業界ではそれを上げることがきわめて重要になってきます。この建物は、不特定多数が出入りするオフィスビルではないので、上下の移動は基本的に自分の居住階と1階や共用ラウンジ、ジムなどの行き来のみであり、また、高級住宅ということで一住戸当たりの面積が比較的大きいということも、コアの面積を抑えてこのようなスレンダーなプロポーションを実現することに寄与しているでしょう。(写真で張り付いている鉄骨のフレームは工事用の仮設工作物で、完成時には外されると思います。)
96階で104戸ですから、一部を除いては、各階1住戸ということでしょう。各住戸とも、奥行きは比較的小さいため、採光、眺望、換気などは良好でしょう。でも、こんな高層マンションで、床から天井まで窓って怖くないんでしょうか?インテリアでなにか工夫しているのかな?14層につき2層、ガラスのない穴になっている部分があります。設備階なのでしょうか。それとも、バルコニー付きの特別な住戸なのでしょうか?
ちなみに値段は、安価な方で1700万ドル(約21億円)一番高い住戸で9500万ドル(約120億円!)です。世界中には、これくらいの住宅が買えるお金持ちが、結構いるんでしょうね。それでもたぶんNew Yorkでも最もセレブな集合住宅ということになるのでしょう。
ガラスに色がついていますが、工事中だけアートっぽく演出しているのでしょうか?(住み始めてからは透明がいいですよね。)
ル・コルビュジエは1938年にCartesien Skyscraper(デカルト主義者の摩天楼)というプロジェクトを発表しましたが、これほどコンセプチュアルではありませんでした。
純粋な立方格子で構成されたように見えるこの建物こそ、直交座標系の概念を確立したデカルトにちなんで、真の「Cartesian Skyscraper」 というべきかもしれません。
さらにご興味のある方は下のリンクをどうぞ。Price Listや上階からのビューを見ることができます。